あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜
「あのっ、だとしたら尚のこと送っていただくわけにはいきません。私、一人で大丈夫ですので」

 ソワソワしながら、やんわりと倍相(ばいしょう)さんの手を振り解こうと取られた腕を引いたら、クスッと笑われてしまった。

「もしかして、僕が恋人に会いに行こうとしてると思って遠慮してる?」

 図星だったのでうつむいたまま無言でいたら、「そういう相手じゃないから気にしないで?」と言われてしまう。

「あ、あの。じゃあ……ご家族ですか?」

 恋人じゃないなら家族――母親や姉妹(きょうだい)かな? と思って何の気なくそう口走ってから、杏子(あんず)はぼんやりしていたとはいえ初対面の相手に何て不躾(ぶしつけ)に突っ込んだ質問をしてしまったんだろうと反省した。

「ごめんなさいっ。私……」

 慌てて謝ったら「別に構わないよ?」と何となく寂しそうな声音を落とされて。
 もしかして、ご家族のことはタブーだったのかも? と杏子は一人オロオロしてしまう。

 話しながら歩いているうち、いつの間にかコンビニ前まで来ていて、倍相(ばいしょう)さんが名案を思い付いたように「そうだ」とつぶやいた。

 その口調から、先程までの仄暗(ほのぐら)い雰囲気が払拭(ふっしょく)されていることにホッとしながらすぐ横に立つ倍相(ばいしょう)さんの顔を見上げたら、今までは暗くてよく分からなかったけれど、彼は結構な美形だった。
< 390 / 539 >

この作品をシェア

pagetop