あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜
 土恵(つちけい)商事から車で約一〇分、恐らくは居間猫(いまねこ)神社近くの杏子(あんず)の住まいから三十分は掛かるであろう場所に、彼女の勤め先である『コノエ産業開発株式会社』はある。

 コノエ産業は主に医療現場やクリーンルームなどで使われる手袋や、ビニールハウス向けフィルム、壁紙(クロス)やコンドーム、ラップなどと言ったプラスチック・ゴム製品を中心に開発・製造・販売を行っている会社だ。

 全国展開の土恵(つちけい)商事より規模は小さいが、そこそこに勢いはある。

 農業用資材などの扱いも割と多いため、土恵(つちけい)とも取引があるし、土恵(つちけい)の契約先農家でもコノエの商品を使っているところは結構ある。

 岳斗(がくと)は父親への反骨精神から、はなみやこグループの関連企業の中で伸びる見込みのある会社には逐一チェックを入れているのだが、コノエ産業もそんな会社のうちのひとつだった。

(業績がいい会社って言うのはある意味好都合だな)

 だからこそ、全くノーチェックの他社より《《いろんな意味で》》やりやすい。

 そんなことを思いながら、土恵(つちけい)商事下へあらかじめ配送手配をしていたタクシーへ乗り込むと、岳斗は「コノエ産業まで」と行き先を告げる。

 コノエ産業には来客用駐車場も完備されているのはリサーチ済みだが、杏子(あんず)は会社まで自家用車で通勤していると言っていた。

 迎えに行って、杏子の車を置いて帰るのは忍びないし、かと言って自分の愛車を置き去りにするのは論外だ。

 もちろん、別々に行動するという選択肢は元よりない。

 自分の愛車は土恵(つちけい)の駐車場に停めてありさえすれば何とでもなる。最悪、飲み会の時なんかにそうしているように、一泊させても問題はない。

 コノエ産業の近くでタクシーを降りると、岳斗は五階建ての社屋を見上げた。

 ――杏子のいる経理課は、何階だろう?


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