あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜
 実際のところ、見た目だけで異性からこんな反応をされることには心底辟易(へきえき)している岳斗(がくと)だったけれど、あえて気付かないふり。

「あの……山本さん?」

 ちらりと受付嬢の胸元に付けられた名札を確認するなり、困惑した(てい)で、わざわざ彼女の名を交えて呼び掛けた。そうして、《《意図的に》》あざとく見えるように小首を傾げて先を(うなが)すのだ。

 これだけで持ち直してくれたのはさすがというべきか。

「あっ、し、失礼いたしました。……つ、土恵(つちけい)商事の倍相(ばいしょう)岳斗(がくと)さまですね。その……み、美住(みすみ)から話は伺っております。彼女を(こちら)までお呼び出し致しますか?」

 ワタワタしながらも、しどろもどろ。何とかいつも通りと(おぼ)しき対応をしてくれたことに、岳斗はホッと胸を撫で下ろす。

 受付嬢の提案を一瞬にして脳内で転がすと、「いえ、途中他の部署の方々や中村経理課長さまにもご挨拶したいですし、経理課が何階にあるのかだけ教えて頂けたら自分で……」とにっこり微笑んだ。

(道すがら、それとなく社内の様子を探ってみよう)

 杏子の様子からして、問題は経理課内だけではないように感じた岳斗は、受付嬢から経理課は四階だと聞き出したのち、わざとエレベーター前を通過して階段へと向かった。


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