あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜
 エレベーターホールと階段の間には社内のフロアマップが貼られていた。経理課が何階にあるか知りたくて受付けに挨拶した岳斗(がくと)だったけれど、もしかしたらしれっとそのまま侵入しても、差し支えなかったかもしれない。

 受付け通過後に社員証をかざすなどするゲートがあったわけでもないことを考えると――。

(ここ、セキュリティ面が微妙だな。――けど……まぁ相手側の防犯面はどうあれ、窓口通すのは社会人としては常識か)

 杏子(あんず)のためならば少々問題を起こしても構わないと思っているのと同じ頭でそんなことを考えてから、岳斗は我ながら考え方が破綻(はたん)してるな、と苦笑せずにはいられない。

 受付けで土恵(つちけい)商事の名刺を出したのは、暴走し過ぎないようにという自制のためでもあったことを思い出した岳斗は、(大葉(たいよう)さんの信頼を裏切らないようにしないと)と気持ちを引き締めた。

 階段をゆっくりと上がりながらタクシー内で杏子に折り返した電話のことを反芻(はんすう)した岳斗である。

 受付けで用件を伝えた時、すんなり話が通ったことからも、杏子はちゃんと岳斗の言い付け通りアポが取られている(てい)で受付けに根回ししてくれたんだろう。

 そういうことが出来たと言うことは、音声データを送ってきた時のような逼迫(ひっぱく)した状況にはないはずだ。いくら防犯意識が低い会社でも、アポなしの人間をすんなりフロア内へ野放しにすることはないと信じれば、の話だが。
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