あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜
「っていうか最近綺麗になったと思いません?」

「あー、それ。何か色気出たよな?」

 杏子(あんず)のことを下品な視点で語る二人の会話に、岳斗(がくと)はそろそろ我慢の限界だなと感じる。そう思って彼らの会話に終止符を打たせようと動きかけたと同時、下卑(げび)た笑いと一緒に
「胸はちっさめですけど」
「確かに! そこはちょっと残念だよな」
 と二人が呵々(かか)大笑(たいしょう)して……岳斗は静かな怒りとともにスマートフォンの録画機能をオフにした。

 これ以上二人の会話を聞いていたら確実に手を出してしまう。

 岳斗は一度深呼吸をして気持ちを整えると、二階フロアへと続く入り口扉をわざと音を立てて開け閉めしてから、足音を響かせて三階へ続くステップへと向かう。

 途端上の方で「ヤベッ」という声とともにざわつく気配がして……同じようにフロアとの境目にあるドアの開閉音が聞こえてきた。

 岳斗はほぅっとひとつ溜め息を落とすと、似た者同士のふたりが立ち去ったばかりの三階踊り場を通過した。

 三階へ立ち寄ってササオについて探りを入れるつもりだったが、その必要はもうない。このまま真っすぐ経理課のある四階へ向かって、杏子を拾おう。そうして落ち着いた場所でササオの彼女だというヤスイアヤナさんとやらのことを聞いてみよう。

 岳斗はスマートフォンをスーツの内ポケットへ戻しながらそう思った。
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