あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜
 ほんのちょっとの間に、何か彼を怒らせることをしてしまったのかとオロオロと岳斗(がくと)を見上げた杏子(あんず)だったけれど、彼は自分の方を見てはいなかった。

「……岳斗さん?」

 戸惑いながらも岳斗の視線の先を見詰めた杏子は、息を呑む。

 いつの間に経理課から出てきんだろうか?

 岳斗のことで頭がいっぱいで全然気付けなかったけれど、二人の行く手を(はば)むように、木坂、古田、安井の三人が立ちはだかっていた。

「どこのどなたかは存じませんけれど……貴方の腕の中の彼女、優しくすると損をしますわよ?」

 ややして、岳斗の変化にも気付かないみたいに、そう告げたのは安井で……。それに同調するように「そうよ、そうよ! その人はいい男とみると色目を使う淫乱女ですもの!」と告げたのは古田、「その足だってわざとらしく引きずってますけど……実際は自業自得なんですよ?」と鼻で笑ったのは木坂だった。

 それでも杏子を降ろそうとしない岳斗に苛ついたのか、安井があからさまに溜め息を吐いた。

「貴方、お綺麗なお顔をしてらっしゃいますけど、女性を見る目がないみたいですね!」

 杏子は自分のせいで岳斗まで悪く言われてしまったことがただただ申し訳なくて……ギュッと身体をちぢこめるようにして「岳斗さん、お願い。降ろして……?」と声を震わせるしか出来なくて――。
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