あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜
42.みんなまとめて地獄へ送ってあげる
「あー、それはね――」

 岳斗(がくと)はニコッと極上の《《腹黒》》スマイルを浮かべると、スーツの内ポケットへ忍ばせていたスマートフォンを取り出した。

 それをポチポチと操作していたら、経理課の中からだけでなく、あちこちから沢山の視線が集まってくるのを感じる。元々、廊下で杏子(あんず)を抱いた岳斗が安井たちに絡まれているという構図自体面白かったのか、他の(フロア)からもポツポツと野次馬が増え始めていて、これはこの会社の良くない体質だなと《《ほくそ笑んだ》》岳斗である。

(どんどん注目が集まればいい……)

 岳斗が腹の中で目の前の面々を嘲笑(あざわら)ったと同時、岳斗の手の中のスマートフォンを見てこらえ切れなくなったみたいに中村経理課長が椅子をガタッと言わせて立ち上がった。

「き、キミっ! ど、どこの誰だか知らないが、うちの課の前で問題を起こすのは大概にしてもらおう」

 恐らく、杏子(あんず)から送られてきた音声データを再生されるのを恐れての行動だろうが、中村課長が血相を変えてくれたお陰で、ますます周りの注目度が上がって願ったり叶ったり。

 ひそひそとささやき合う声の中に、「中村課長も一枚噛んでるの?」とか「安井さんたちが中心ってことは美住(みすみ)さんと笹尾さんの件よね?」などといったものが混ざり始める。

 今や、人が人を呼ぶ形で集まってきた野次馬の群れで、廊下が物凄い人だかりだ。

 その中に営業課の笹尾の姿を見つけた岳斗は、自分の強運に拍手を送りたくなった。
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