あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜
 その様子がさらに安井やその取り巻き、そうして「いい加減にしないと警備員を呼びますよ!」と岳斗(がくと)へ《《決死の》》(おど)しをかけている中村経理課長、果ては取り巻きに呼び寄せられて《《仕方なく》》愛想笑いを浮かべて「亜矢奈(あやな)、どうしたの?」と《《恋人を気遣うふり》》をしながらこちらへ近付いてきた笹尾にストレスを与えることは計算づくだ。

 岳斗はそんな面々を春風駘蕩(しゅんぷうたいとう)たる《《悪意を感じさせない》》視線で見詰めると、唇に手を当てて〝静かに(シーッ)〟とジェスチャーで周囲のざわめきを鎮めてから、おもむろに再生ボタンを押す。


***


【あれさぁ、亜矢奈(あやな)が来なかったら怪我させられたのをネタに美住(みすみ)さんのこと、落とせてた気がするんだよね、俺】

 岳斗(がくと)が手にしたスマートフォンから、フロア内に大音量でそんな音声が流れ始めて、笹尾が目をこぼれ落ちんばかりに見開いたのが分かった。

 岳斗はその変化にわざと気付かないふりをして再生を続ける。

【笹尾さん、悪い男っすねー。正直(ぶっちゃけ)階段から落ちたのだって実はデモンストレーションだったんじゃないっすか?】

 笹尾、とハッキリ名前が出たことで、前のセリフが笹尾のものだと特定されたのを察知した人間たちが「え? 笹尾さん、美住さんに言い寄られたって言ってたけど……違うの?」とか「もしかして階段から落ちたっていうのも自作自演?」と(ささや)き合う声が聞え始める。
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