あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜
 倍相(ばいしょう)岳斗(がくと)から穏やかな声音で「自分で話せそう?」問い掛けられた美住(みすみ)杏子(あんず)は、不安に揺れる瞳で周りを見回した。

 今まで自分がどんなに声を上げても誰一人として杏子の言うことに耳を傾けてくれる人なんていなかった。でも、今はどうだろう?

 岳斗のお陰で随分周りが自分を見る目が変わった気がする。

 杏子は身体の奥底に滞ったままの不安を追い出すみたいに肺の中の空気を静かに吐き出すと、一度だけ目を閉じた。

 それから次にまぶたを上げた時には決心が付いていた。

 全て岳斗がそばに居てくれると思えるお陰だ。

 杏子は真っすぐに近衛(このえ)社長を見据えて、凛とした声音で「お話します」と答えた。


***


 杏子の意志表示を受けた岳斗は、コクッとうなずくと杏子に「ちょっとだけ待ってね」と告げてその場にいる面々を見回した。

「さて、皆さん。このままここで断罪劇場を繰り広げるのも僕としては面白くていいなと思うのですが、それでは業務に支障が出てしまいます。自社内の問題を理由に、取引先の方々へご迷惑をお掛けするのはおかしな話です」

 そこまで言って「ですよね?」と近衛(このえ)社長を見詰めると、「あ、ああ、その通りです」と慌てたように社長が同意してくる。
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