あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜
(あん)……美住(みすみ)さんは岳斗(がくと)にとってそれほど大切な相手ってことか?」
 ――己の人生を左右されても構わないから助けたいと思うほどに。

 言外にそう含ませた大葉(たいよう)に、岳斗はなんの迷いも見せずに「はい」と即答した。

 それを聞いた瞬間、大葉(たいよう)は岳斗を引き止めることを諦めたのだ。


***


羽理(うり)法忍(ほうにん)さんには……」

法忍(ほうにん)さんには大葉(たいよう)さんから土井社長へ話して頂いたあとで、僕から話せたらなと思っています。荒木(あらき)さんについては……大葉(たいよう)さんのタイミングにお任せします」

 もちろん、どんなケースになったとしても、自分からもちゃんと羽理と話す、と岳斗は約束してくれた。

 無責任に土恵(つちけい)商事の財務経理課長としての仕事を放り出すことだけはしないでいてくれた倍相(ばいしょう)岳斗(がくと)は、退職願を大葉(たいよう)に預けてからもしばらくの間は、いつもと変わらず出社してくれていたから、傍目(はため)には常と変わらないように見えただろう。

 だが実際にはあれから本日にいたるまでの数日間は、最低限の引き継ぎを大葉(たいよう)にして、『あとのことはよろしくお願いします』と託すための期間だった。

 羽理には申し訳ない形での告白になってしまったけれども、ある意味これ以外のタイミングを大葉(たいよう)は思いつけなかったのだ。

 羽理の様子を見て、本当に岳斗がいなくなることを気付いていなかったんだなと思った大葉(たいよう)は、だからこそ、と拳を握りしめた。
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