あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜
「それで《《社長》》」

 わざわざ〝伯父さん〟ではなく〝社長〟と呼び掛けたのには大葉(たいよう)なりの理由がある。

 そう呼んだだけで恵介伯父が一瞬で〝土恵(つちけい)商事の社長〟の顔になるからだ。それを確認して、大葉(たいよう)は一度ふぅっと息を吐き出すと、口を開いた。

倍相(ばいしょう)課長が不在になると財務経理課には大きな穴があきます。その状態で、俺は副社長に就任することはできません」


(たい)(よう)?」

 不意に大葉(たいよう)からギュッと手を握られた羽理(うり)は、すぐそばで真っすぐ土井恵介を見据える大葉(たいよう)の横顔を見詰めた。


「それはどういう意味かな?」

「財務経理課に新しい課長が着任するまで、俺にその役目を任せて頂きたいのです」

 新しい財務経理課長を内部から選出するにせよ、外部から連れてくるにせよ、すぐのことにはならないだろう。大葉(たいよう)は、その隙間を自分に埋めさせて欲しいと申し出たのだ。

「けどそれじゃあ」

「副社長はもともと土恵(つちけい)にはないポストです。そこを埋めることにこだわって、日々の業務が滞る方が問題ありだと思いませんか?」

 大葉(たいよう)の言葉に、倍相(ばいしょう)課長と屋久蓑(やくみの)部長を一気に失うと思っていた羽理は(もしかして大葉(たいよう)とはまだ一緒のフロアにいられる?)と思ってつい社長を凝視する目に懇願の色を(にじ)ませてしまう。


荒木(あらき)さん、キミもたいちゃ……屋久蓑(やくみの)部長がもうしばらくは総務部長でいてくれる方がいいの? 副社長夫人の方が良くない?」

 その視線を汲まれたんだろう。突然土井社長から矛先(ほこさき)を向けられた羽理は、一瞬ビクッと身体を震わせて……すぐ横の大葉(たいよう)を見遣った。すぐさま大葉(たいよう)から大丈夫という風にうなずかれた羽理は「私は大葉(たいよう)のお嫁さんになりたいんです! 彼の役職なんて関係ありません!」と、ハッキリ意思表示をした。
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