あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜
岳斗(がくと)さん、今日は色々とご迷惑をお掛けして本当にすみませんでした!」

 足を痛そうにしている杏子(あんず)ちゃんを一人で帰せない、という理由で、岳斗は彼女を家まで送って行くと提案したのだけれど、実際にはそんなの建前で、一気に色々あった杏子のことを一人にしておけないと思ったのだ。

「ね、杏子ちゃん、僕は『すみません』より『ありがとう』って言われたいな?」

 ふわっと微笑んで彼女を見詰めたら、杏子が一瞬瞳を見開いて、それから何故かぶわりと頬を赤く染めた。

 その表情を見て、岳斗は密かに期待してしまう。

(ねぇ、杏子ちゃん、もしかして少しは脈があると思ってもいいのかな?)

 岳斗は生来自分の欲望には物凄く貪欲(どんよく)な方だと思っている。

 花京院岳史(クソおとこ)に引き取られたせいで継母(ままはは)(とも思いたくないが)花京院(かきょういん)麻由(まゆ)からネチネチとした虐待を受けた結果、欲望を抑圧されて思春期を過ごしたのが大きいんだろうと自己分析している。

(――いつか必ずこいつらを見返してやるんだ!)

 (しいた)げられるのを受け入れるふりをしながら、そういう気概で何とか幼少期をやり過ごしてきた岳斗は、裏表の顔を(たく)みに使い分ける人間になってしまった。

 本当に欲しいものに対しては人一倍敏感なくせに、欲していると他者にバレるのが怖い。もし本心に気付かれたなら、誰かに奪われてしまうかも? という危機感がどうしても拭えない。

 子供の頃、岳斗が欲しいモノは望んでも与えられなかったし、もし何らかの形で手に入れられたとしても、気が付けば麻由に取り上げられていたからだ。

 長じてからはその反動もあって、あの手この手で欲しいものを自分のそばへ引き寄せて、手に入れたものは誰にも奪われないよう大切に守ってきた岳斗である。

 実父(クソ男)を出し抜いての土恵(つちけい)商事への就職だってそうだ。

 あれは花京院(かきょういん)岳史(たかふみ)という男がプライドの(かたまり)なことは承知していたから、土壇場で『はなみやこ』を裏切った息子を、役員らを説得してまで追いすがってはこないだろうという、一種の賭けだったが、どうやら自分はその賭けに勝ったらしい。

 クソ男からの妨害が入らないと確信した岳斗は、土恵(つちけい)で上に昇ることに専念した。

 もちろん、そのための努力は惜しまなかったつもりではあるけれど、そのお陰で屋久蓑(やくみの)大葉(たいよう)よりも若い年齢で課長職に()くことが出来た。
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