愛を秘める

渋々、彼に手を引かれながら、

長い長い、廊下を歩いた。

嫌な汗が首筋を伝って、

犬みたいに呼吸を繰り返して、

彼の背中がぐにゃりと歪んだ時、

廊下のまんなかでしゃがみ込んだ。

「立ち眩みか?」

「いや、別に。」

なんて。

頭なんてとっくに回らなくて、

大した言い訳も思い浮かばない。

「美麗…先、行ってていーよ。」

彼はいつも何も言わなかった。

都合の悪いことは聞かない。

それが酷く心地好かった。

「………いや、今日はサボるか。」

「は?…え?何、どうしたの。」

彼からの初めての提案だった。

そういえば…今日は彼の手の方が、

よっぽど冷たいような気がする。

急に不安になり思わず手を引っ込めた。

「っ、何。」

彼はそれからしばらく黙り込み、

やっと口を開いたかと思えば、

微かに震えた小さな声が言葉を紡いだ。

「真雄の時間をくれないか。」

琥珀のように澄んだ瞳に射抜かれて、

思わず立ちすくむ。

「………?うん、別に良いけど。
どこか行きたいところでもあるの?」

「…行けばわかる。」

…ここで話すつもりは無いようだ。

「えー。」
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