愛を秘める

彼は珍しく目を合わせようとしない。

「珍し。何、拾い食いでもしたの?」

「お前こそ人の心配なんて珍しいな、
明日は知恵熱でも出るんじゃないか。」

「うっざー。」

申し訳程度の冗談を交えて、

授業開始のチャイムが響く学校を、

二人でそっと抜け出す。

風が彼のストレートの黒髪を、

ふわりと揺らすのを横目で見ながら、

少し大きめに一歩を踏み出した。

「…スカート短すぎないか?」

歩道橋の階段を上ると背後から、

少し不満げな声が投げかけられる。

「えー、見える?えっちぃ!!」

スカートを抑えて茶化すと、

「学校に紐パンはセンスを疑う。」

彼は階段を上る足を止めることなく、

ぴしゃりと吐き捨てる。

「あんたこそ、デリカシー迷子?」

「痛。」

彼の尻を軽く蹴飛ばした。

「だから足上げんなっつぅの。」

手入れの行き届いた綺麗な指先が、

目の前にスッと差し出される。

思わず階段を上る足を止めて、

指先の行く末を眺めた。

「イタッ!」

自分のおでこから『ペチッ』と軽い音。

彼は少し気が抜けた笑みを浮かべた。

「あっ!置いていかないでよー!!」
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