原田くんの赤信号
 原田くんの想像力は、素晴らしいと思う。わたしはこんな偽りの作り話で泣けるほど、想像力に長けていない。
 復習テストで満点を取った原田くんはやはり、家庭教師でも雇ったのだろう。国語や数学、社会に英語。そしてたっぷりの道徳を教えてくれる、パーフェクトな教師を。

「原田くん。原田くんは死なないでしょ」

 わたしたちふたりしかいない階段で、どちらかが涙してしまえば、そこには気まずい空気が漂うだけ。

「だってこんなにも元気じゃん。風邪ひとつひいてない」

 原田くんの涙には心が少し痛んだけれど、彼は感情に波がある人だから、気持ちが不安定な時ほど涙を流す。それは秋の帰り道でも、ひしひしと伝わった。

 またきっとすぐ笑う。またきっと普通の原田くんに戻る。だって原田くんは、変だから。

 泣きじゃくる原田くんを見守っていると、彼は「どうすりゃいいんだ」と言って、鼻をすすった。

「瑠美。どうすれば俺を好きになってくれる?どうすれば福井のところに行かずに済む?」

 わたしを好きだとは言わない変な告白をしながら、懸命に、訴えかけてくる。

 そんな告白、やめて欲しいと思った。なんだか切なくなるんだ、悲しくなるんだ。
 わたしのことなど好きではないのに、思わせぶりな態度をとらないで欲しい。

 原田くんはわたしを好きじゃない。わたしは原田くんを好きじゃない。だからもう、かまわないでよ……

「福井くんに、恨みでもあるの……?」

 わたしの震える声は、原田くんにどう伝わったのだろう。

「それとも福井くんには、他に好きな人でもいるの?」

 ねえ教えてよ原田くん。

「わたしが福井くんに近づいちゃいけない理由は、なんなのよっ……」

 こんなの、納得がいかないよ。
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