原田くんの赤信号
「それは言えない」

 肩書き通り意地悪な原田くんは、わたしの知りたいことを、簡単に教えてはくれない。

「なんで、言えないの……?」

 それでも疑問はぶつけてみた。
 しかし彼は、(だんま)りを通すだけ。

 もう一層のこと、原田くんを相手にするのを放棄した方がいいのかもしれない。そうでないと、こっちが滅入ってしまう。
 世界は広い。色んな人がいて、色んな考え方がある。だからそう、例えるならば原田くんとわたしは一番端と端にいるんだ。

 絶対交わらない、遠い端っこに。

「そろそろ行くね」

 いつまで経っても口を開かぬ原田くんに、わたしは言った。

「もうわたしと福井くんのことには関わらないで」

 と、そう言った。

 原田くんはそんなわたしに絶望したような顔を見せると、その悲壮に満ちた涙目の瞳で、真っ直ぐわたしを捉えにくる。

「瑠美……」

 もう話したくなどないのに、消え入りそうな声で名前を呼ばれてしまえば、放ってはおけない。

「……なに」
「今週末……福井へのプレゼントをモールに買いに行くんだろう?」
「え……」

 まだ誰にも話していない、週末の予定。
 それをどうして原田くんが知っているのだろうと謎に思い、わたしは聞いた。

「どうして知ってるの、そのこと」

 すると原田くんは、「まずい」の三文字を顔面に貼り付けた。

「あ、えーっと。み、美希から聞いた」
「まだわたし、美希ちゃんのこと誘ってないよ?誘おうとは思ってたけど……」
「まじか。てっきりもう約束したのかと思ってた。女子って予定立てるの早いじゃん」

 謎が払拭されないまま、ハテナが浮かぶわたしの前、原田くんはもっと不思議なことを言ってくる。

「福井は青よりも、緑が好きだよ」

 話を変えようとしたのかなんなのか、唐突に、福井くんの好きな色の話になった。

「福井は緑が好きなんだ。青じゃない」

 それは、わたしが福井くんの好きな色を青だと勘違いしているのだと、知っているようにも思えた。

 涙が止まり、原田くんがつい先ほどまで泣いていた名残は、何度もすすられる鼻と赤い目だけ。
 原田くんを包む絶望感は変わらずそこにあって、だけど彼は必死に口角をあげていて。

「なあ瑠美。まだ美希を誘っていないなら、今週末、俺と一緒に買いに行かない?福井のこと、美希よりは詳しい自信あるし。もし最後のプレゼントになるとしたら、福井の好みのものを渡したいだろ?」

 そんな原田くんに、またわたしの頭に追加されるハテナがひとつ。

 ねえ原田くん。あなたはどうして、これが最後のプレゼントだなんて言ってくるの?
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