原田くんの赤信号
 ああ、そうか。おそらくこういうことだ。

『どうせ瑠美なんてフラれるだろう』って。
『福井へのバレンタインプレゼントは、最初で最後だろう』って。

 もう、変を通り越して原田くんは、性悪な人なのかもしれない。


「瑠美おせえ」
「ご、ごめんっ」

 二月六日、土曜日。
 わたしと原田くんは、高校近くのショッピングモールで待ち合わせた。

「七分遅刻」
「電車一本乗り遅れて……」

 原田くんは、時間に厳しい人だ。

「だから瑠美の家まで迎え行くって言ったんだよ。出発する駅が同じなんだから、最初から一緒に行った方が楽だろ」
「だって。そしたら十四日来るじゃん……」
「はあ?」
「わたしの家教えたら、バレンタインデーの日にわたしの家に来るでしょう?」

 原田くんは「ちっ」と舌打ちをすると「バレたか」と言って不貞腐れた。

 諦めそうだと思えば、全然諦めない。
 やっぱり原田くんは、しつこい変な人だ。

「ま、行くか」

 赤いキャップのツバをつまみ、深く被り直した原田くんは、不意にわたしの手を取った。

「え。なんで手なんか繋い──」

 繋いで行くの?そう言おうと思ったけれど、握った原田くんの手が少し震えていたから、途中で声が詰まってしまった。

 いや、でもこんなとこ、知り合いにでも見られて変な噂が立ってしまえばわたしの恋はおしまいだ。
 休日に男女がふたり仲良く手繋ぎ歩いていたら、誰がどう見てもカップルじゃないか。

 喉を(ひら)いたわたしは、口も大きく開けた。

「は、原田くんっ、こんなとこ福井く……」
「福井は今日、バレーの試合だよ」

 福井くんや福井くんの友だちに見られたら嫌だから、手を離して欲しい。

 まだまだわたしの文章は続くのに、原田くんがそれを早々に割って返事をしてきた。

「潤もナベちゃんも石森も、福井の友だちは大体応援行ってる。茶化す奴なんて、誰も歩いてねーよ」
「そう、なんだ……」

 もしかすると、原田くんは超能力者ではないかと思うほど、鋭い勘の持ち主。

 週末にわたしが福井くんへのプレゼントを買おうとしていたことを見透かされたのもそうだし、今も胸の内を見破られた。

 変、不思議、不可解。

 ただでさえよくわからない原田くんがもう、全くもってわからなくなる。

「だったら原田くんも、福井くんの応援行きたかったんじゃないの?」

 原田くんが恋愛感情もない、こんなわたしの予定に付き添うよりも、遥かに楽しそうなバレーの試合観戦。

「原田くんも、そっちに行けばよかったのに」

 だからわたしはそう言った。
 というか、わたしも行きたい気がしてきた。今からでも行きたい。福井くんが見たい。

 原田くんは「まあなー」とすんなり本音を漏らしたかと思えば、また赤いキャップのツバを下げた。

「福井は応援なんかなくても勝つから大丈夫。あいつのブロック、すげえから」
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