原田くんの赤信号
「今日はありがとう原田くん。これで準備バッチリだよ」
「おー……」

 原田くんは、ズズッと麺をすする。

「楽しみだなぁっ。早くバレンタインデーこないかなぁっ」
「……な」

 ひとこと零してまたすする。途端に口数が少なくなった原田くんに、よほど疲弊させてしまったのだろうかと心配した。

 少ない会話のまま空になった、原田くんのラーメンの器。それを見ながら、わたしは二個目のドーナツに口をつけた。

 ピコンとその時鳴ったのは、原田くんのスマートフォン。内容を確認した彼は、それでテンションが戻ったのか、「ほら」と口角を上げてその画面を見せてくる。

「潤からのメール。バレー勝ったって連絡きた」
「わっ。本当だ」

 そこにはスコアの写真も一緒に添付されていた。

「すごいすごい!けっこうな点差だねっ」
「おう。しかもこれ、福井のブロックで半分以上決めてんだぜ?」
「そうなの!?」
「そうそう」

 原田くんが手渡してくれた、スマートフォンの画面に見入る。上から下まで隈なく見渡し、全てを読ませてもらったところで、再び彼の手元へ。

「強いだろ、福井」

 ご機嫌な原田くんに、わたしは聞いた。

「どこに……書いてあるの?」
「え?」
「福井くんのブロックで半分以上の点を決めたって、どこにも書いてなかったよ?」

 その瞬間、ガチャン!と音を立てて落ちたスマートフォン。
 落とした本人はと言えば、拾いもせずに硬直していた。
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