原田くんの赤信号
「だからお願い、行かないで」

 話終えた原田くんは、わたしの手をとった。双方共に、氷のような冷たい手だった。

「お願い瑠美っ、福井のところなんかに行かないで。もう死なないでよっ」

 必死な原田くん。懸命な原田くん。
 どうしてここまで、と思えば、彼を信じてあげたくなってくる。

 だけど。

「瑠美、お願いっ」

 今わたしの全身が震えるのは、むずがゆいのは、掻き乱された気持ちからくるものではなくて、長時間しゃがみ込み、足がしびれたからだって全力で自分に言い聞かせてしまうのは──

「瑠美お願い。俺といよう?ずっとずっと、俺のそばにいてよ」

 その言葉に、原田くんの愛なんてないから。

 だって、原田くんはわたしのことを好きじゃない。これだけ誘っておいて、一緒にいようと言ってくれたって、それでも原田くんは絶対にわたしを好きだって、そうは言ってくれないんだもん。

「ごめん、原田くん……」

 だからわたしは、ずっと前から好きな福井くんのところに行く足を止められないんだ。
 もし止めたら、福井くんを選ばなかったらわたしは。

 きっとわたしは──
< 60 / 102 >

この作品をシェア

pagetop