原田くんの赤信号
「福井くんのところに行くっ」

 原田くんは変な人だ。
『くだらない理由で命をかけられる、天気博士で意地悪でなんでもすぐ落とす、頭の良いしつこい変な人』だ。
 そして、生きている人間に向かって『お前は何度も死ぬんだという作り話を聞かせてくる、変な人』だ。

 わたしはそうやって思い込むことを選んだ。

「原田くんは、もう帰ってっ」

 一瞬力をなくした原田くんの手を振り切って、わたしは駅の方へと足を走らせた。

 後ろで原田くんが叫ぶ。

「瑠美!」

 しびれた足。走りにくい。
 けれど今すぐ原田くんの前から立ち去らなくては、わたしは彼の元に留まってしまいそうで怖かった。
 あれだけ気にかけていた髪が、バサバサと風に揺られて乱れる。
 なんだかもうそんなこと、どうでもよく思えた。

 駅へと風を切りながら、頭の中で繰り返すのはこんなこと。

 わたしは死なない、死ぬわけない。
 わたしは死なない、死ぬわけない。

 どうして原田くんは、わたしのことを何度もよみがえったゾンビみたいに言うのだ。
 ひどいっ。
 だってほら、生きてるじゃんか。足はしびれているし、風は冷たい。全速力で走れば息が上がるし、疲れてしまう。
 こんなことは、生きているから感じられることなんだ。

 わたしは死なない、死ぬわけない。
 わたしは死なない、死ぬわけない。
 だってわたしは生きている。

 この胸の痛みも歯がゆさも、頬を勝手に伝う涙さえ、わたしが生きている証拠なのに。
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