原田くんの赤信号
 原田くんは、追ってこなかった。

「はあっ、はぁっ……」

 徐々に速度を緩めたわたしは、息を整えながらゆっくり歩く。

「はあ、はあっ……」

 頬を濡らした涙を拭い、地面へ息と一緒に落としていくものは、原田くんを信じたかったと名残惜しむこの想い。

 わたしは、自分を誤魔化すことに勤しんだ。

 原田くんの作り話はひどい。相当ひどかった。福井くんの家へわたしを行かせたくないがために作った、最低な物語だ。

 わたしの苗字をオオハラだかオオバラだか聞いてきた時は普通の人だったのに、一体いつからこんな変な人になってしまったのだ。

 早くまた、普通の人に戻ってよ原田くん。

 福井くんの自宅最寄り駅へ向かう電車に揺られながら、わたしは原田くんとの思い出を振り返る。

 そういえば、目を真っ赤に染めているくせして、原田くんはいきなり微笑んだんだ。変だから。ええっと、どうして笑ったんだっけ。

 あったけぇー。
 あったかいんだな、瑠美って。

 ああそうだ、わたしの手が温かかったからだ。どうしてたったそれだけのことで、笑えたのだろう。

 ガタンゴトン。
 車窓の向こう。慣れ親しんだ地元の風景から、見知らぬ町へと変わっていく。
< 62 / 102 >

この作品をシェア

pagetop