原田くんの赤信号
 男性から視線を車道に移すと、黒のワゴン車が目に入る。わたしより何倍も大きな図体のそれは、次々にガードレールをなぎ倒していた。

 キキィーー!と鳴りわめくブレーキ音は、もう限界。「間に合わない!」という悲鳴に聞こえた。

 こちらへと突っ込み向かってくるワゴン車を、ただ呆然とわたしは眺めていた。
 スローモーションにも思えたその刹那は、わたしに悔いる時間を与えてくれた。

 ああ、どうして原田くんを疑ってしまったのだろう。
 ああ、どうして原田くんを信じてあげなかったのだろう。

 原田くんはいつもわたしを追いかけ、わたしを掴もうとしてくれていたのに。
 原田くんの抱く思いに何も気付けなかった馬鹿なわたしは、また彼に迷惑をかけてしまうのだろうか。

 それとももう。もう、今回でわたしは──

 いくら後悔しようが、時既に遅し。超特急の車を前に、わたしには成す術はない。
 だから、わたしは諦めたんだ。
 目を閉じて、今日の雨のように静かに、自分の『最期』を受け入れようとした。

 なのに。

「瑠美!!」

 幻聴のように、聞こえてきたんだ。

「瑠美死ぬな!」

 優しいあの人の声が。
 明日も明後日もずっと会いたい、彼の声が。

「俺は瑠美が好きだ!」

 これは夢か幻か。原田くんがずっとかたくなに言わなかった、好きを言ってくれたんだ。
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