原田くんの赤信号
 原田くんは、変な人ではなかった。

『くだらない理由で命をかけられる、天気博士で意地悪でなんでもすぐ落とす、頭の良いしつこい変な人』ではない。
 生きている人に向かって『お前は何度も死ぬんだという作り話を聞かせてくる、変な人』でもない。

 原田くんはね。
『純粋で涙もろくて、友だちを必死で守ろうとするすごく良い人』だ。

 すごく、優しい人なんだ。


 原田くんの『好き』の二文字は、わたしの体を動かした。瞳に映るは、手を精一杯伸ばした彼がわたしに駆け寄る姿。

「は、原田くんっ……」

 もう無理だろうけど。もう間に合わないだろうけれど。わたしもそんな原田くんに、手を伸ばしたんだ。

「原田くん!!」

 どうしても最後に触れたかったから。どうしても最後に伝えたかったから。

 今まで本当にごめんね。そして、ありがとうって。


 わたしは優しいあなたに、恋をしました。


 ゴォン!と鈍い音がした。鈍器でも振り落としたような、鈍い音。
 そして、その直後に訪れたのは、漆黒にも似た闇だった。
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