犬猿☆ラブコンフリクト
男子の後ろには、さっき声の聞こえた山崎くんの姿もあった。
あぁ、突き飛ばされたんだ。
現状をみて導き出された答えが、脳裏によぎる。
あの時、かなり怒ってたもんな。
こうなっても仕方ないか。
自分の身に起きていることなのに、どこか他人事のように思えてくる。
「茉弘!」
由紀の焦ったような声が私の耳に届く。
それと同時に、私に伸ばされた手──でも、それは私に届くことなく空を切る。
あぁ・・・落ちるんだ、私。
後ろ向きだから大して怖くは無いけど・・・大怪我しなきゃいいな。
そう考えながら衝撃に備えて目を閉じた時──
「辻本っ・・・!?」
声が聞こえるのと同時に、ドンッと背中に衝撃が走る。
何が起こったのか分からないまま、床へと倒れ込む。
だけど、何か温かいものがクッションになったようで、想像していた痛みより全然軽かった。
「辻本さん・・・!」
「大丈夫!?」
由紀と山崎くんの声と駆け寄って来ているのであろう足音が聞こえてくる。
目を開けて状況を確認しようとした時、目の前に見えたのは、二海の顔だった。
どうやら、私が落ちてる時にぶつかったのは二海だったらしい。
そのまま押し倒すようにして彼の上に乗っかってしまっていたようだ。
「二海・・・!?ごめん、大丈夫!?」
二海の上から降りながら声をかける。
すると、少し苦しげに閉じられていた彼の目がうっすらと開いた。
「・・・・・・ほんっと、人にぶつかるの好きだな。オマエ」
悪態をつきながら体を起こす二海。
やばい・・・どうしよう・・・二海怪我してないかな?
「茉弘、二海くん!」
「け、怪我は無い・・・?」
近くにいた由紀と山崎くんが駆け寄ってきて声をかける。
「私は二海がクッションになってくれたからちょっと痛いだけ。だけど・・・」
2人の問いかけに答えながら、二海の方を見る。
あの高さから私を受け止めてなおかつ私の下敷きになった二海の方が怪我してる可能性が高い。
二海、バスケ部のスタメンなのに・・・!
「・・・毎日のようにコイツのタックルくらってるんだ、大した事ねぇよ」
「なっ、毎日してる覚えはないんだけど!?」
ケロッとしながら私を指さす二海に対して反論する。
だけど・・・良かった、怪我はしてなさそうだ。
「・・・怪我がなくてよかった。・・とりあえず、このこと先生に伝えてくる。・・・辻本さんのこと突き飛ばしたあの人も、どこかに逃げちゃったみたいだし」
山崎くんは、メガネを押し上げながら階段の上の方を見上げる。
私も同じように見上げると、私を突き飛ばしたいじめっ子くんはそこにはもう居なかった。
「そうだね。あと、とりあえず2人は保健室行こう。どこか怪我でもしてたら大変だし」
2人の声掛けに素直に耳を貸し、私と二海は保健室に向かうことになった。