旅先恋愛~一夜の秘め事~
「あんなに取り乱した副社長の声を初めて聞いたそうよ。何度も唯花は無事なのかって尋ねていたらしいわ。とりあえず今夜はうちに泊まったら?」


「迷惑かけて、ごめんね」


必死に絞り出した声で謝ると、頭上から麗の穏やかな声が聞こえた。


「気にしないの。それより自分のこれからをきちんと考えなさい。椿森副社長と今後どうしたいのか、なにを話したいのか、とかね。体調は大丈夫なの?」


「うん……」


「よかった」


その後、麗はなにも話さず、私も無言で窓の外を眺めていた。

区役所から車で十五分ほどの場所にある麗の自宅マンションに到着し、自室に入る。

促されソファに座ると、麗が温かなハーブティーを淹れてくれた。

持っていた差し入れの弁当は麗が冷蔵庫に入れてくれた。

真向かいに座った麗はスマートフォンをチェックしていた。


「……少しは落ち着いた?」


マグカップを握る指先にじんわりと温かさが伝わって、うなずく。


「このまま別れて後悔しないの? 相手の幸せを願うのは美談だけど、自分は幸せになれないわよ。だから私は絶対母のお見合い作戦に負けない」


私は自分がかわいいから自分の幸せを最優先に考えちゃう、と麗が笑う。
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