旅先恋愛~一夜の秘め事~
「ずっと見つからなかった。それでも彼女との時間を事あるごとに思い出していた。自分が苦しいとき、迷ったり、悩んだとき、彼女との短いやりとりは俺を支えてくれた」


懐かしむように目を細める彼をじっと見つめる。


「一年が過ぎたとき俺はこの気持ちが恋情だと気づいた。それからはさらに必死に捜したがダメだった」


予想していた通りの答えに、心が悲鳴を上げる。  

ヒリヒリ痛む胸を押さえながら、泣かないように唇を噛みしめた。  


「半ばあきらめかけていた矢先、彼女が見つかった。でも彼女はまったく俺を覚えておらず少しショックだった。三年前の情けない自分が恥ずかしかったが、少しでも思い出してほしくて、わざと伝えなかったんだ」


「え……」


「そしたらその人は勘違いをして、逃げ出してしまった。そのとき、自分が大きな間違いを犯したと思い知った。再会できるだけで嬉しかったはずなのに、欲を出した自分の身勝手さに呆れたよ」


初めて目にする苦悩の表情に彼の気持ちの深さを思い知り、胸が苦しくなった。


「再会したらずっと言いたかった言葉があるのに、それすら伝えれていなかった。やっと、言える。唯花、あの日、俺に傘を貸してくれてありがとう。遅くなって悪かった」


思わず見惚れるくらいの優しい眼差しが、私を真っ直ぐに射抜く。
< 153 / 173 >

この作品をシェア

pagetop