旅先恋愛~一夜の秘め事~
眩しい光に重い瞼を僅かに開くと、すぐそばに目を閉じた暁さんの面差しがあった。

長いまつ毛が頬に濃い影を落とし、薄い唇からは小さな寝息が聞こえる。

眠っていても完璧な容姿に見惚れてしまう。

こみ上げる愛しさに背中を押され、彼の頬にそっと指を伸ばす。

男性とは思えないすべすべした肌触りと、伝わる体温に胸が切なく疼く。

体を起こして形の良い額にそっとキスを落とすと、長い腕に強く引き寄せられた。


「……どこに行く?」


掠れた、色香の混じる声にギュッと心が鷲掴みにされる。


「目が覚めたから……見てただけよ」


好きすぎて触りたくなった、なんて誤解を招きそうな発言はできない。


「……どこにも行くな」


私を胸の中に強く抱き込んで、彼が頭頂部付近でつぶやく。

苦しそうな声に胸が詰まり、鼻の奥がツンとした。

大きな背中にそろそろと手を回す。


「うん……」


彼の胸に顔を埋めたまま答えると、暁さんがフッと吐息を漏らした。


「敬語、なくなってるな」


「あ……すみません」


「なんで謝る? 敬語はやめろと言っただろ? そのままでいい」


「はい、ええっと、うん」


焦って言い直した私の髪を、彼が優しく撫でる。


「……ずっとこうして抱いていたい」


ストレートな感情をぶつけられ、鼓動が暴れだす。


「帰したくない……これから覚悟しておけよ。俺は二度とお前を手離す気はないからな」


低い声で言い放ち、額に落とされたキスの意味はわからないままだった。
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