旅先恋愛~一夜の秘め事~
その後、仕事がある彼は名残惜し気に私に幾度となく口づけて、身支度を整えた。

帰宅するまでいるよう言われたが、着替えもないので帰ると伝えた。

すると一気に不機嫌な表情を向けられてしまう。


「送っていく」


「ひとりで帰れるから」


シーツを巻きつけて、彼と向かい合って立つ。

足元が少し覚束ないが、歩けないわけじゃない。

昨日あのまま眠ってしまった私の顔はきっと悲惨な状態だろうし、このままでは外に出れない。

寝起きも完璧な暁さんがうらやましい。


「ダメだ。古越の人間がいたらどうする」


「まさか、こんな朝から……」


「用心するにこしたことはない」


押し問答を繰り返すが、結局押し切られてしまい、できうる限り急いで帰る準備をする。

彼は私の様子を心配そうに見ながらも、仕事らしき電話をしていた。


その後、自宅まできちんと送り届けてくれた。

部屋の前まで行くと言われ、慌てて仕事に早く向かうように促す。

ただでさえ、時間を取らせているのにこれ以上は申し訳なさすぎる。


「お前と少しでも長く過ごしたい」


車から降りようと、シートベルトを外す私の顎を彼が長い指で掬い上げる。

ゆっくりと唇の形をなぞるようにキスをされて、頬が一気に熱を持つ。
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