大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~
 カラになった湯呑みを前に、ふう、と咲子は息を吐く。

「美味しかったです。
 ありがとうございました。

 落ち着きました」
とハツに頭を下げたあとで、咲子は行正を見て言った。

「……あなたと暮らすようになって、しばらく経ちましたけど。
 私、まだ、あなたのことがわかりません」

 すると、行正は顔をしかめて言う。

「お前は誰のこともわかってないと思うぞ」

 そ、そうなのですかね?
 私、人の心が読めるのに、そんなことってあるのでしょうか。

 そう咲子が思ったとき、行正がハツに命じた。

「ハツ、ちょっと灯りを消してくれ」

 この家は夜でも煌々(こうこう)と電気で明るい。

 ハツが灯りを落とすと、行正は立ち上がった咲子の手をとり、窓際に行くよう(うなが)す。

 サンルームの大きな窓に今は日は差し込まないが。

 月の光が差し込み、星が綺麗だった。

 東京にもまだ夜の灯りは少なく、ハッキリ星が見える。
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