大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~



 壁にずらりと燭台の並ぶ長い廊下に、いくつか西洋風の大きな扉があった。

「へえー。
 中に入ったら、思ったより、洋室部分広いですね」

 黙っていようと思っていたのだが。

 これから住むはずの屋敷の素晴らしさに、思わず、咲子はそう呟いていた。

 前を行く行正は沈黙している。

「……こんなに洋室ばかりだと、和箪笥は何処に置いたらいいんですかね~?」

 これだけは訊いておかねばと果敢に話しかけてみたのだが、返事はない。

 ああ、もうこの美しい旦那さまのことは諦めよう、と絶望の中、咲子は思った。

 返事もあまりしてくれないし、こっち見てくれないし。

 きっと結婚しても、外にお(めかけ)さんとか作って、帰ってこないんだろうな。

 私はこの素敵なお屋敷で、お友だちとか呼んだりして、ひとり楽しく暮らそう。

 長く悩むことが苦手な咲子は、あっさり行正と家族になることを諦めた。
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