恋なんてしないと決めていたのに、冷徹御曹司に囲われ溺愛されました
 クスッと笑う彼女の目にはうっすら涙が浮かんでいた。
 恋人の死から九年経っても、彼女は恋人を作らないでいるらしい。
 何度か『前へ進んだらいいんじゃないか? 杉本もそれを望んでいると思う』と言ったことがあるが、彼女は聞く耳を持たなかった。
「これがあなたへの手紙。涼太の日記に挟まってたらしいわよ」
 峯岸がバッグから出して俺に手渡したのは、コバルトブルーの封筒。
「ありがとう」
 礼を言って封筒を見ると、少し丸っこい字で【一条へ】と書かれていた。
 杉本の字……。懐かしい。
 今は見ずにスーツのポケットにしまう。
「昨日、亮太のご両親からいただいた彼の日記を全部読んだの。闘病が辛いって毎日のように書いてて、私と一条くんともっと過ごしたかったって」
「そうか」
 お見舞いに行くと、杉本は俺の前では笑っていた。
 俺に弱いところを見せたくなかったのかもしれない。
「今日、杉本が夢に出てきたんだ。『もう俺が死んだことで苦しむな。死んだ俺より、今生きている人間を大事にしろよ』ってね。だから、峯岸もいつまでも思い詰めるな」
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