処刑直前の姫に転生したみたいですが、料理家だったのでスローライフしながら国民の胃袋を掴んでいこうと思います。
「体に異変はないのか」
「えー無いっすよ。むしろめちゃくちゃ甘くて、こんな美味いトマト食べたの初めてっす」
「俺にも味見させてくれ」

プーリーが興味深そうに齧りついた。
肉厚の果肉を咀嚼し、みずみずしいジュレの部分をすする。
一度ゆっくり味わうと、ゴクリと喉を鳴らし勢いよく二口目、三口目と頬張った。

「う、うまい……フルーツのようだ……」
プーリー鼻息を荒くしながら、口元を拭った。

「何故こんな事が……」
「ゆづか……」

フェンが呟く。
俺はすぐに反応した。

「なんだって?」
「これ、ゆづかの仕業じゃねえ?」
「どういうことだ? 一体どうやって! ゆづかが戻ってきてるってことか?!」
「ちがうって、落ち着け」

前のめりに迫った俺を、フェンは窘める。

「変化があったところは、ゆづかが水を運ぼうと訓練した畑だ」
「ーーーーは……」

畑の位置を確かめて、俺は絶句した。
全部、訓練に使った畑だった。

「リアの力は特殊だ。風と水に特化していて、唯一雨雲を操ることが出来る。乾季が長く、雨が貴重であるノーティ・ワンで、天気を操り、雨を降らせることが出来るから、奇跡の女神と言われたんだ。
それなのに、ゆづかだと主張し始めたあの日から、その魔力を使えたことがない。
生まれつき持っている筈の力なのに、何度練習をしても、片鱗さえみせなかった」

「ネギ植えたときも、全然役に立たないってフェンさん、ゆづかに怒ってましたもんね」
「そうだよ。ゆづかは一生懸命頑張ってたのに、あんなに怒って可哀想に」

話の途中で非難されて、フェンは「うるせえな」と気まずそうに身じろいだ。

「ーーーーとにかく、ゆづかという意識になって、俺は力の使い方を忘れたのだとばかり思っていた。だが、使える魔力の質が、変わっていたとしたらどうだ?」

「つまり、従来持っていた風と水の力ではなく、農作物の成長を促す力に変わったってことか」

「そうだ。あいつが訓練した畑だけ、これほどまでに成長しているんだ。辻褄合うだろ。人格が入れ替わった時に、魔力も入れ替わっていたと考えるのが妥当じゃないか? 魔力は、その者の本質を現す。料理好きのゆづかに、そういった力があっても不思議じゃない」

その話を聞いていた者たちは、緊張でゴクリと喉を鳴らした。

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