処刑直前の姫に転生したみたいですが、料理家だったのでスローライフしながら国民の胃袋を掴んでいこうと思います。
ゆづかはそのまま、作業台に向かって何かを作り出した。

さっき見つけた高級な衣服を、ためらいも無くナイフで切り裂いてしまい、カウルは面食らう。
いくらすると思ってるんだ。
リアが気に入って着ていた服だった。

少しでも染みができたら大騒ぎしていたのに……

こんなところにも、以前とは違う人格であるのだと思い知らされた。
ゆづかは動きやすさ重視で、お洒落に興味は無いらしい。
煌びやかな服は苦手らしく、使わないのももったいないから、城の者にあげてしまったらどうかと提案されるほどであった。


「髪くらいふいてくれ。風邪をひくだろ」


作業に集中する彼女の頭を、後ろから拭いてやったが「短いしすぐ乾くもん」と作業の手を休めない。

カウルは美しく輝く金の髪に布を当て、丁寧に水分をとっていった。

そう言えば“ゆづか”になってから、リアが大事にしていた髪と肌の手入れも、殆ど行っていないことに気がついた。

自分の美貌だけが命という、以前の彼女の欠片も見られない。
最近、畑仕事ばかりで日に焼けたようだ。
ゆづかは鼻歌を口ずさみながら、ご機嫌で布を切っていた。

午前の畑仕事から働きっぱなしなのに、元気なものだ。


「昼食作りもお掃除もサボってごめんね。どうしても明日までにこれを仕上げたいの」

「それは別にいいけど、何を作っているんだ?」

「フェンの妹さんにあげる、カツラを作ってるんだ」

「かつら? なんだそれは?」

「帽子みたいなやつ」


切り裂いてしまった服を丸く縫い合わせ、樹液の接着剤で切った髪を少しずつ束ねると、糸で括ってから、布に縫い付けてゆく。


「俺にも出来ることあるか?」

「あ、じゃあお願いしようかな」


カウルはゆづかの横で助手のようになり、言われた通りに手伝った。

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