処刑直前の姫に転生したみたいですが、料理家だったのでスローライフしながら国民の胃袋を掴んでいこうと思います。

ゆづかは黙々と集中し、話しかけても視線を寄こさなかった。
昼食の時間になっても、その位置から動かない。さらには夕食も食べようとしないので、カウルは見かねて食事をとってきてやった。

口に食べ物を入れてやると、雛のように口だけを開いて受け取った。


「ありがとう、美味しい!」

口は動かしたが、やはり真剣な眼差しは手元に注がれたままだった。


「お腹空いてるんだろう。休憩したらどうだ?」

「うん。でも、もうちょっとだから」

全然言うことを聞いてくれない。

「昼間もずっと畑仕事だったじゃないか」

「うん。でも、水浴びてただけで結局なーんもできなかったし、そんなに疲れてないから」

「そうか?」

力は出なかったが、手のひらは微かに光っていた気がしたのだが……。

光ると言っても、手の周囲の空気が揺らめいているくらいの変化で、気のせいと感じる程度だ。
記憶を失っているせいか、中身が違うせいなのかは不明だが、まだ力のコントロールができないだけで、魔法自体は持っているようだった。


「無理はするなよ」

「ありがとう。大丈夫!」


何度休憩を促してももうちょっとで終わるからを繰り返し、結局、作業は明け方まで続いた。
< 72 / 120 >

この作品をシェア

pagetop