お嬢様は完璧執事と恋したい

 しかしそうだとしても、澪の気持ちは変わらない。それが父と母の望みであることは理解できるが、だからと言って父と邑井建設のために望まない結婚を受け入れるつもりはない。

「私、好きな人がいるの! その人以外との結婚なんて、絶対しないから!」
「ちょ……待ちなさい! 澪!」

 それだけ口にすると、話は終わりだとばかりにその場から離れる。背後から父が制止を促す声が聞こえてきたが、立ち止まれば気の遠くなるほど長い説教が始まり、澪が頷くまで延々と説得が繰り返されることは目に見えていた。

(表情一つ変えないのね……)

 壁に沿って控えていた朝人の横を通過するとき、ちらりと表情を確認する。あれから関係が気まずくなるかもしれないと思っていた澪の予想に反し、朝人の態度は変わらない。今もじっと前を見つめるのみで、澪とは視線が合うことさえない。

 澪の気持ちは理解しているはずなのに。両親の前で宣言した『好きな人』が自分であることに、気付かないわけがないのに。

(悔しい!)

 結局、澪の想いは彼に届いていない。届いていても、受け取ってくれるつもりがないのだ。
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