お嬢様は完璧執事と恋したい

(取りに戻ろ)

 さすがにどちらかは所持していないと、公共交通機関も利用できないし、飲食店に立ち入ることもできない。ほとぼりが冷めるまでどこかで時間を潰すことも出来ない。

 沢城以外には誰にも会わずに取ってきたいな、と思いつつ振り返ろうとした瞬間、予想外の出来事が澪を襲った。

「えっ!?」

 踵を返す直前、後ろからやってきた――というより、後ろに立っていた人物が澪の右肩を強い力で掴んできた。

 何事かと思って視線を上げると、そこにいたのは見知らぬ大男だった。咄嗟に変質者の類かと思ったが、澪が驚いているうちに左手で口を塞がれてしまう。さらに右肩を掴んでいた手を手首に掴み直され、そのままぐいぐいと引っ張られる。

(え、ちょ、ちょっと! なに……っ!?)

 口を塞がれて腕を掴まれた澪は、そのまま大男の怪力にずるずると引きずられていく。こんな街の中の、しかもセキュリティ上防犯カメラが多いタワーマンション群の中で、なんという大胆な奇襲をするのだろう。
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