お嬢様は完璧執事と恋したい
ちなみに誘拐されるのは初めてではない。過去にも何度か、父の財産を狙った輩から学校帰りに拉致された経験がある。
だがそれは自衛や防犯対策の仕方も知らない、本当に幼い頃の話だ。数回の誘拐事件を経験した澪には、自分で自分を護る術を身に着けるまで、学校にも習い事にも友達と遊びに行くにも護衛という名の監視がついていた。さらに父がマンションを新設してその上層階を自宅にすると決まったとき、強固な最新セキュリティシステムも導入した。
よってここ最近は誘拐されたこともないし、その可能性も過去の記憶もすっかりと抜け落ちていた。
「邑井社長の娘だな?」
「……ん! ……む!」
「答えろ!」
(ええっ? 口塞いでてどうやって声出せって言うの!?)
傍にいた三十代半ばほどだと思われる細身の男が、澪の身元を確認してくる。だが口を塞いだままではハイもイイエも言葉に出来ない。一応首を動かすことは出来るのでこくこくと頷いてみたが、チッと舌打ちをされたので伝わっているのかは怪しいところだ。
「写真と同じ顔だ、間違いないだろ」
同じく三十代半ばと思われる運転席の大男がボソッと呟く。