貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈
「……疲れた……」

もう真っ暗な夜の山道を下る車の中で、私は溜め息とともに呟いた。思っていたより声が大きかったみたいで、それが主任の耳に届いたのか「あれだけで?」と抑揚のない低い声が返ってきた。

確かに、『あれだけ』なのは否定しない。長時間かけて実家に帰ったのに、滞在時間は1時間足らず。したことと言えば、婚姻届を書いてお茶をしただけだ。

「お夕飯くらい食べていけばいいのに」

お母さんはそう言って引き留めたが、主任は素っ気なく「すみません。帰りが遅くなりますので。また改めてご訪問します」なんて返していた。

「ちょっ! 与織が帰るなら俺も帰る!」

もちろんふう君はそう言って帰ろうとしたが、今度はそれにお父さんが答える。

「颯太には話がある。今日はここに泊まりなさい」

滅多に見ない、ものすごく真剣な顔のお父さんにふう君は仕方ないとばかりに息を吐くと、主任に向いた。

「今日は与織を創一さんに任すけど、ちゃんと家に送り届けてくれよ? 実樹に帰ったこと報告してもらうから。無断外泊なんて許さないからな!」

いくらなんでも、そんなことあるわけないじゃない……

そう言いたかったけど、ふう君が本気でそう言っているのを察して言い出せなかった。
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