貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈
私がそう言うと、しばらく沈黙が続いた。まだまだ山道で、後ろからの車も、すれ違う車もない。ウインカーがカチカチ言う音が聞こえたかと思うと、路肩の、車がちょうど1台停められるスペースに車は滑り込んだ。
主任は車が停まると、はぁ、と一度息を吐き私を見た。

「知らなくていい」

車の中に、主任の冷たい声が響く。

「な、……んで? 私も当事者でしょう? 何でそんなこと言うんですか?」

私は勢いよく主任に返す。

誰も私に本当のことを教えてくれようとしない。私はいつだって蚊帳の外で、いつまでも子ども扱いされている気がする。そう思うと、勝手に涙が溢れてきてしまう。

「もういいです。家に帰ります」

そう言うと、私は手早くシートベルトを外してドアを開けると外に飛び出した。

わかってる。こんな行動をしてしまうのは、まだ自分が大人になりきれてないからだって。

外気は春といってもヒンヤリとしていて、外に出た途端に薄着の私の肌を刺す。私は車が下りて来たほうへ向かって歩き出した。

「待てっ!」

後ろでガチャリとドアが開いた音と、主任の慌てた声がする。

「大丈夫です。一人で帰れます」

振り返ることなく、私は緩やかな坂を登るように進む。自分が情け無いし、頭の中はぐちゃぐちゃで、涙がとめどなく溢れた。
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