貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈
「結構混んでるな」

確かに月曜日の通勤電車内は混雑している。ぎゅうぎゅうに押し込まれた私達は隅に追いやられ、避けようもなく密着していた。

緊張するよぉ!

私は内心パニックだ。私は創ちゃんの胸に顔を埋めるような状態のまま俯いている。どうしよう。いっちゃんにすら、こんなにくっついた覚えは久しくない。

「もう1時間早いと、ここまでじゃないんだがな」

そう話す振動さえ私に伝わってくるようだ。

「そっ、そうなんですね? 私、いっつもこの時間だから、こんなものだと思ってました」
「まぁ、普通はそうだろな」

平静を装いながら会話をしているが、途中で電車が揺れると私の背中を支えてくれる創ちゃんにドキドキしっぱなしだ。

きっと、目の前に誰がいようとそうするに違いない、と自分に言い聞かせる。私だけが特別じゃない。そう思わないと変に意識してしまう。

「しゅ……。創ちゃんはいつも早いですよね?」

まだまだ慣れない創ちゃん呼びは、気を抜くとすぐに主任に戻ってしまう。取り繕うように言い直して私は尋ねた。

「ん? あぁ。仕事のこともあるが、大抵は混んでるのが嫌で早く行ってるだけだ」
「じゃあ、明日からは早く行きますか? 私早起き得意ですよ?」

少しだけ顔を上げてそう言うと、私を見下ろしていた創ちゃんと目が合う。

「そうだな。これが毎日続くのは……ちょっとしんどいな」

一瞬照れたような表情で顔を逸らすと創ちゃんはそう言う。何故そんな顔をしたのか全く見当が付かず、不思議に思いながら、私はその顔を盗み見ていた。

会社の最寄り駅に着くと、ドッと人が押し出される。ビジネス街の一つだからそれなりに降りて行く人も多い。
創ちゃんははぐれないようにか、私の肩を支えるように外に出ると改札に向かっていた。そういうさりげないところにやっぱり育ちの良さを感じてしまう。

改札を抜け、今度はさすがに手を繋がず並んで歩いていると、創ちゃんは「そうだ」と不意に私に言った。
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