もふもふ魔獣と平穏に暮らしたいのでコワモテ公爵の求婚はお断りです
 彼女は無意識に『シエル』と唇で形を作っていた。

 とてもきれいな響きだが、これからお前の名になるのだと言われても、すぐには受け入れがたい。

「私には恐れ多いお名前です」

「だが、貴女は女神の名を冠するにふさわしい女性に思える」

 なにをもってそう言っているのだろうと、彼女──もといシエルは不思議に思った。

 グランツとは出会ったばかりで、言葉を交わしたのもこれが初めてだ。温かな眼差しを向けられる理由も、求婚される理由もない。

 しばらく黙っていたグランツの部下たちが、互いに顔を見合わせてささやく。

「相手は魔女だろう? 団長は妙な魔法で誘惑されてるんじゃないか?」

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