ブルー・ロマン・アイロニー
「ドラマで見るキスシーンとは全然違った。生々しかった。だけど不思議な引力があって、心臓がどきどきした。見たのは一瞬だったけれど、わたしは、ふたりを綺麗だと思った」
わたしは一呼吸置いて、「それがわたしの答え」とナナちゃんに笑いかけた。
「わたしは可笑しいとは思わないよ。人間がアンドロイドに恋をすることも、人間とアンドロイドが仲良くすることも、可笑しいなんて思わない」
ポケットから取り出したハンカチは幸いにもぐしゃぐしゃになっていなかった。
ほっとしながらそれをナナちゃんの手の上に置いて、上から自分の手を重ねる。
「泣いちゃうくらい苦しいなら、わたしは、普通なんて気にしなくてもいいと思う。自分の気持ちを押し殺して生きるのってすごく辛いよね」
ナナちゃんはこの気持ちを、ずっとひとりで抱え込んできたんだ。
誰にも相談できずに、今までひとりで耐えてきたんだ。
普通という名の足かせを引きずって、世間からの目という重圧を受けながら。
「話してくれてありがとう、ナナちゃん」
ナナちゃんは顔をおおって、嗚咽を漏らした。
ちいさくて、とてもちいさくて、それは聞き逃してしまいそうだったけれど。
寄り添えばちゃんと耳に届く、”柊ナナのほんとうの気持ち”だった。