童話書店の夢みるソーネチカ
 千花はなにかを振り払い、走り出していた。涙と暗闇で前も見えないまま、声の届かない場所を探して一心不乱に駆ける。

 寒さでかじかんだ足も今だけは千花の味方でいた。

 ……思い出した。このボロボロの服、さっきまで読んでいた絵本の中でシンデレラが着てたんだ。私いま、シンデレラなんだ。

 シンデレラが虐げられている不遇な少女だとは知っていた。それでもこんなにつらいの?傷だらけの服で、死ぬような寒さで、雑用を強いられて、言葉で抉られて。私はもう耐えられない。


 どこからか、少女の声が聞こえた。

 何といっているのか暴言が重なりある闇の中では判断できなかったけれど、千花を包み込むような優しい響きで、その声は千花を導いていた。

 顔を上げると、狭まった視界の遠方でかすかな光が宙を舞っている。

 不思議とあれは千花の味方でいてくれる存在だと思った。荒い息も収まらないままに、一歩一歩光を目指す。

 たどり着くまでの時間は長かったのだろうか。意識がはっきりすると、目と鼻の先にその光は佇んでいた。

 そうしてその場でくるくると回った後、手を振るように左右に揺れて、上空に弾けた。
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