妹と人生を入れ替えました~皇太子さまは溺愛する相手をお間違えのようです~

10.弱い女

 だけど次の日も、そのまた次の日も、一週間が経っても、華凛が帰ってくることはなかった。

 その癖、憂炎の方は毎日馬鹿みたいに、まめまめしく通ってくる。どんなに遅くなっても宮殿を訪れる上、今にも倒れそうな青白い顔をした憂炎を見ていると、嫌でもイライラが募っていく。


(前みたいに自分の宮殿で一人寝しろっつーーの)


 奴の執務室と私室は目と鼻の先。わざわざ遠く離れた後宮まで足を運ぶ理由は無い。そんな時間があるなら、少しでも睡眠時間を確保すれば良いと心から思う。
 だけど、そう言ったところで素直に頷くような男じゃない。わざわざ嫌味を口にするのも面倒だから、放置することに決めた。


 そんで、肝心の華凛が後宮に来られない理由はというと。


「忙しすぎるからな。後宮に遊びにやる時間がないんだ」


 痺れを切らして再び尋ねたわたしに、憂炎は全く悪びれることなくそう言い放った。


「そもそもここは、妃の親族だからってだけで簡単に入れる場所じゃないんだぞ。身体検査も受けないといけないし、手続きだって色々面倒なんだ」

「だけど……だからってさ!」


 わたし自身、後宮に入るときは色々と確認を受けた。武器を隠し持っていないかとか、実は男じゃないかとか、そういう面倒な検査だ。
 だから憂炎が言いたいことは分からないではない。


(でも、それじゃわたしが困るんだって!)


 早く後宮を出たい。元の生活に戻りたくて堪らないのに、いつまで我慢を強いられるのだろう。
 鍛えてないと、身体は日々鈍っていく。思い切り身体を動かして、思う存分汗を掻きたい。
 こんなゴテゴテしい服装に分厚い化粧、重い装飾品は嫌だ。身軽な服に身を包みたい。
 市井に出て楽しく過ごしたいし、好き勝手色んな場所に行きたい。

 だけど、何よりももどかしいことは、憂炎に対する自分の感情がちっとも説明できないことだった。


(本当に、どうしてわたしが妃なんだろうなぁ……)


 隣で微睡む憂炎を見つつ、小さくため息を吐く。

 幼い頃の憂炎はわたしよりも小柄で、ヒョロヒョロしてて。だけど物凄い負けず嫌いだし、いつも誰よりも鍛錬していて。そんなあいつの側で、泥だらけになるまで走り回って、稽古に励むのが好きだった。
 わたしたちは男女というより、良き友・戦友のような間柄の方がしっくり来る――――女と認識されるだなんて、全く思っていなかった。
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