スキナダケ
外がちょっと騒がしかった。

様子を見たかったから、毛布を夕海に投げた。

「それ被ってて。絶対に顔出さないでね」

夕海は素直に頷いて横になって毛布を被った。
啜り泣く声だけが聴こえた。

彼氏は素直に言うことは聞かなそうだったから、頭を押さえつけて、ナイフを目の前にチラつかせた。
刃先には夕海の血液がべっトリ付着していた。

「体、起こさないでね」

「…」

「お、こ、さ、な、い、で、ね?」

「…はい」

「分かった?」

「はい」

掛け布団を彼氏に被せてから、ナイフは持ったままだよってアピールする為に、掛け布団の上からナイフの柄でゴツっと頭を殴った。

Tシャツを脱いだままだったから、今朝脱いだままベッド脇に置きっぱなしだスウェットパーカーを着た。

ベッドに乗ったまま、カーテンをちょっと開けたら外に人が何人か集まってハナの家を見上げてる。

さっきの銃声の音がさすがに響いていたんだろう。

うちの向かいのおばちゃんが、二階のベランダからこっちを見てた。

窓を開けて手を振ったら、向こうも腕からぶんぶん大きく振って、こっちに向かって叫ぶように言った。

「ちょっとハナくんどうしたの!?すーんごい音がしたじゃない!?」

野次馬達がハナとおばちゃんを見上げて、映画でも観るみたいな顔で鑑賞している。

なんでもエンタメになる世の中。
どれだけつまらない日常を過ごしてるかの象徴だ。

ハナと居ればとびきり最高のエンタメの中で暮らせるのに。
こいつらみたいに。

でも誰もそんなこと望んでない。
自分は変わらない日常の中で、他所で繰り広げられるエンタメだけを搾取して生きていたいって思ってる。

人の不幸は蜜の味で、自分は平和が一番だって思ってる。

だから何もかも、ハナが壊してあげる。
人間はいつか必ず死ぬ。
だったらいつ死んだっていいじゃん。

どうせ死ぬのなら、命の期限なんてみんな同じだ。
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