先輩とわたしの一週間
「……そのテのはしかし男のバイトが行くもんじゃねえの?」
「お客さんがいる時はそうですけど、閉店してから全部返却しないといけない時は手分けして、になるからどうしてもですね。男女半々ってわけでもなかったですし」

 そこで何かを思い出したのか晴香は「あ」と呟いた。

「お店閉めてからみんなで鑑賞会っぽいのしたことあるような?」
「……自由だなお前んとこのバイト先」
「新規オープンのお店だったんで。社員さんとも年近かったし」

 そしてさらにまた「あ」と呟く。

「私も処女なんですけど」

 追撃までもがデッドボール。それでも葛城は吹き出さなかった。盛大に咽せ返ったが。

「彼氏に萎えたって言われてリリースされたって言って友達にバカウケされつつそいつもクズだから別れてしまえって言われてそうしようってしたらその前に別の女の子とすで付き合っててほんとにクズだー! ってなったのを今思い出しました」
「とんでもねえ情報を横殴りで喰らった状態の俺が言う台詞でもないんだが……お前今相当テンパってんな?」
「なんだか正気に返ったら死ぬなって気がしてますねすみませんビールくださーい!」
「これ以上余計なこと言う前に止めとけ……」
「でもこうなんていうか口が止まらないって時があるじゃないですか!」

 運良く、と言うべきか運悪く、と言うべきかで追加のビールはすぐに届いた。ゴクゴクと半分程を一気に減らして晴香はグラスをドン、とテーブルに置く。

「萎えたとかだから処女は面倒くさいとか捨て台詞吐かれたのとか、ちゃんと別れ話したわけでもないのに自然消滅みたいな感じで新しく彼女作られてたのとか」
「そんなクズでトラウマになる義理はねえだろ」
「あ、トラウマとかじゃないんですよだって今の今まですっかり忘れてましたし」

 だったらこの状況は一体なんだ、と葛城はテーブルに片肘を付いて項垂れる。気持ち的には巻き込まれ事故も甚だしい。こっちの気も知らずに、と思うが本人的にもまさに「口が止まらない時」なのだろう。

「それ以降誰かと付き合ったりしなかったのか?」
「んー……なんかもういいかなというか、そもそもその人と付き合ったのも試しでいいからとかなんかそんな……理由? だったんで。別れた時からして特に悲しいとかもなかったから、わたしはわたしで本当に彼のことを好きではなかったんだろうなあと」
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