先輩とわたしの一週間
 そうか、と葛城がグラスに口をつけると「だからまだ処女なんですけどね」と三度目のデッドボールが飛んできて、ついに葛城は吹き出した。

「うわあ先輩大丈夫ですか?」

 誰のせいだ、との言葉を寸前で飲み込んで葛城は晴香から手渡されたおしぼりで濡れた口元を拭う。

「きっとこれから先もずっとこのままなんですよ」

 へらり、と笑う晴香に卑屈さは欠片もない。だからこそその言葉は本気で口にしている上に、それをどうにかしたいという気持ちもないということなのだろう。

「いないのか、今は?」
「なにがですか?」
「好きなヤツ」
「いないですねえ」

 今は先輩と仕事してるのが一番好きですよ、とさらに晴香が笑う。

「先輩は?」
「なにが?」
「好きな人いないんですか?」
「酔っ払い相手に言ってもなあ」
「なんですか人に訊くだけ訊いて自分は言わないとか卑怯じゃないですか?」
「そういう話じゃ」
「なくないですー!!」
「やっぱ酔っ払いじゃねえか!」

 テーブルに額をのせてグリグリと頭を動かす晴香の姿はどう見たって完全な酔っ払いの姿だ。

「酔ってる感じにはなってますけど、でもいつもちゃんとわりと結構話した内容とかは覚えてるので大丈夫です!」
「……この状態での話の中身覚えてるとか地獄じゃねえの?」
「ちょっといつもよりかは危険な気配はひしひしとしてますね!」

 突っ伏したままクスクスと笑いをあげる晴香の頭を葛城は軽く叩く。

「ほらもう起きろ。帰るぞ」
「先輩の家に?」
「お? お持ち帰りしていいのか?」
「先輩ならいいですよー……というかわたしお持ち帰りってされたことないです!」
「そりゃそもそもお前が飲み会とか参加しないからだろ」
「だから出ないといけないのには出てますってば! でもそういう時ってほとんど保護者がいるからなにも起きないんですよ」
「誰だよ保護者って」
「先輩に決まってるじゃないですか」

 一部の間で晴香の保護者呼ばわりされているのはなんとなく知っていたが、実際はっきり言われると葛城としてはなんとも微妙な気持ちになってしまう。

「お前色々迂闊だからな……」
「なんですかそれー」

 むくりと晴香が身を起こす。
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