先輩とわたしの一週間
 不意打ちの剛速球はデッドボールでしかない。
 あまりの事に吹き出しても誰が責められようか。それでも葛城は吹き出さなかった。単純に運が良かっただけであるが。

「あ、わたしの友達の話なんですけど」

 吹き出しはしなかったが動揺はしている。お、おう、としか返せない葛城であったが、酔いの回っている晴香はもちろんその事に気が付かない。

「短大の時の友達で、この前久々にみんなで会ってご飯食べたりしたんですけど」
 その時に一人の友人が付き合っている彼氏にそう言われたらしい。

「彼氏さんが、男友達とそんな話で盛り上がってたのを聞いちゃったらしくて。それで二人で会ってる時に問い詰めちゃったそうで」
「そりゃあ……なんだ……まあ、少なくともその男がクズってことは」
「ですよねクズですよねわたしもそうだし他の子もそうだよ、ってなってそんな彼氏とは別れてしまえってなって」
「別れたのか」
「その場で別れるって連絡入れました」
「英断即決でよかったじゃねえか」

 はい、と頷いて晴香はグラスに手を伸ばす。中身は何杯目かのビールだ。元気に飲み干す姿を眺めつつ、しまったこれでダメ押しだなと葛城は小さく息を吐いた。責任を持って送り届けるしかない。葛城は晴香の住所を知らないが、晴香をやたらと可愛がっている五月なら知っているだろうし、最悪近くのビジネスホテルに放り込めばそれでいいだろう。

「でもそんなことを言う人間が一人じゃないってことは、処女が面倒くさいって思う男の人が多いってことなんですかね?」
「話引っ張った……」
「なんですか?」
「……ンでもねえよ……ってだからそれはそんな言うヤツらがクズってだけで、類友でそんなクズが固まってただけだろ」
「じゃあ世間一般的にはそう思わない人が多い?」
「そこまでは知らねえけどな」
「わたし、元カレと今回の友達の話聞くまでは逆だとばっかり思ってました」
「逆?」
「処女が好きな人多いって」

 己が危機回避能力を褒めてやりたいと葛城は思った。グラスに口を付けただけで、そのまま中身を飲まずにいて本当に良かった。

「先輩も処女好きなんですよね?」
「えっらいとこから剛速球飛ばしてくんじゃねえ」
「面倒くさいって思わないってことは好きなんだなって」
「極論!」
「だってAVでの処女モノたくさんあるし! 需要が高いって証拠じゃないですか!」
「おっ……、まえ、見んのか!?」
「え!? AVですか!? 見たことないですよ先輩セクハラ!」
「今までの会話だとお前の方がセクハラじゃねえか!」
「短大の時にレンタル屋でバイトしてたから、中身の返却でアダルトコーナーにも行かなきゃだったから知ってるんです! 外側だけ!」

 ふふん、と何故か誇らしげに胸を反らす晴香に対し、葛城は逆にテーブルに突っ伏しそうである。
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