先輩とわたしの一週間

少し戻って金曜日、居酒屋にて




 晴香が葛城の務める大手文具メーカーに入社してきたのは二年前。短大卒で来ました、というだけあって当時二十六歳であった葛城から見ても若い、というかまあ子供の様であった。
 当初総務部に配属された晴香であるが、急遽葛城の下、営業部に移動になったのは葛城が原因である。
 その頃の葛城はとある理由によりかなり女子社員を忌避していた。にも関わらず新入社員の、そして女子社員が配属されたのは単純に人手不足であったからだが、それにしたってお互い不幸でしかない。正直自分でもあの頃の晴香に対する態度は悪かったと葛城は思う。しかし当人はあまり気にしている感じもなく、ただ淡々と葛城に指示を仰ぎそれに応えていた。職場の先輩として必要最低限の接触しかしてこない。それが当時の葛城にはとてもありがたく、自分の態度が徐々に柔らかくなっていったのは当然の事であり、そしてそれに伴って晴香の認識も「職場の頼りになる先輩」という信頼と親愛のこもった物へと変わっていった。

 そうして気付けば先輩後輩としてコンビを組んで二年が経ち、今では営業部のトップを走るエースとその補佐役として認められている。
 そんな二人であるからして、わりと仕事あがりに食事に行くのは日常茶飯事だ。特に今週は文具メーカーが一挙に集まっての展示会に向けての準備で忙しく、しかし通常業務もあるものだから目の回る忙しさだった。それらをなんとか片付けてやっと一息入れられる、ともなればお疲れ様会だそしてそのまま壮行会だ、と「行くぞ日吉!」「行きましょう先輩!」と互いに妙に高いテンションで居酒屋になだれ込んだ。
 まずはビールで乾杯をして、あとはそれぞれが好きに頼んだ料理を摘まみ合う。いつもの二人での飲み会の風景だ。

「しかしまあ、あれだ」

 年末商戦の繁忙期か、と思わせる様な怒濤の日々だったと一通り仕事の愚痴が落ち着いた所で、だし巻き玉子を口に放り込みつつ葛城がふと思い出した様に呟いた。晴香は子持ちししゃもを頬張ったまま続きを待つ。

「入ったばっかの頃のお前からしたら、中々に信じられねえな」
「……なにがですか?」

 ごくり、と晴香はししゃもを飲み込む。葛城は二切れ目のだし巻きに箸を伸ばす。
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