先輩とわたしの一週間
「職場の人間とメシとか飲み会とか行きたくねえって言ってたのが、今はこうして俺とサシで飲み食いするようになってるだろ? なんて言うか、野生動物の餌付けに成功した気分だなと」
「ものすごく失礼なことを言われているわたし」
「事実だろ」
「違いますよ、職場の人ってわけではなくて、特に親しくもない相手と……ご飯食べたりお酒飲んだりするのが……苦手ですって言ってたわけで」
「より一層悪くねえか?」
「それに歓迎会とか送別会とか、そういうのにはちゃんと参加してました! わたしが嫌いなのは合コンとかそういうノリの職場の飲み会とかで、そんなのに無駄なお金使って飲み食いしたくないってだけです!」
「赤裸々告白ひでえなホント」
「先輩だって別に飲み会とかそんなのに参加してるのあんまりないじゃないですか。少なくともわたし見たことないですよ? 嫌いなんですか?」
「そもそも行く時間がねえ」
「わあい社畜」

 おかげでわたしもほぼ社畜なんですけどね、と晴香は葛城がつついていただし巻きに手を伸ばす。代わりにそっちよこせ、と葛城が目で伝えれば晴香の手元の皿から子持ちししゃもが移動してきた。

「行く時間がないって言うより、先輩は行かないでいい理由を作るために社畜ってる感じがしてましたけどね。今はマシっぽいですけど」
「良く見てんな」
「丸二年一緒にいたらさすがにわかってしまいました」
「イヤそうに言うなあ」
「それだけ先輩に付き従わされていたのかと思うと」
「入社二年で営業部の日吉、で名前覚えられるようになったんだから感謝しろよ」
「先輩こそこの二年、営業部エース様って言われるのにですよ! わたしのサポートがあってこそってとこをですよ!」
「感謝してるからこうして飯とかちょいちょい奢ってんだろ」
「ちょいちょい」
「全部奢られるのイヤがんのはお前だろうが」
「そこはそれ、節度ある後輩ですから」

 ちなみに今日は葛城の奢りである。営業成績を認められ金一封の出た先輩の立場であれば晴香も遠慮はしない。

「持つべきは口が上手くて機転の利く、顔がいい、らしい営業の先輩ですね!」
「なんだそれ」
「なにがです?」
「顔がいい、らしい」

 何故にそこだけ伝聞形なのか。

「褒めるなら全部褒めろよ」
「総務の子とか、あとほかの部署の同期の子とかがですね、先輩のことをイケメンとか格好いいとか言うんですけど」
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